提言と主張

こども庁構想に向けた「子ども・子育て政策の改革 5つの緊急提言 」
〜すべての妊産婦と親子を孤立させない〈皆支援〉〈皆保育〉の実現を〜


子どもと家族のための緊急提言プロジェクト

 新型コロナウイルスの災禍は、子どもと子育て家庭への社会的支援の乏しさを浮き彫りにしました。子どもと親、妊産婦をめぐる社会環境は激変しており、妊娠による葛藤、産後うつ、育児の孤立、児童虐待などが増大しています。私たちは特に妊娠・出産、乳幼児期の子育てについて、切れ目のない支援の実現が急務であることをここに提言します。
 いま、国においても、子ども・子育てに係る縦割りを克服し、一元的に所管する「こども庁」創設構想が検討されています。安心して産み育てられる社会環境の実現を目指すなら、あらゆる家族と子ども、妊産婦を継続的に支え、孤立させない仕組みを作ることが必須であり急務です。それは、ひいては少子化危機の克服や日本の未来に資するものと考えます。

【提言の背景】
〇本プロジェクトに先立ち、「新型コロナウイルスに係る就学前の子育て家庭への緊急アンケート調査」(2020年6月)や「子ども・子育て課題報告×クロストーク」(2020年8-9月の活動を通し、子育て家庭の孤立がコロナ禍で一層進んだ危機感を持ちました。これからの日本の子育てには、妊娠からの伴走型支援を実現する〈皆支援〉と、地域の子育てインフラである良質な保育施設が全ての子どもと家庭に利用可能となる〈皆保育〉が必須と確信しました。

〇子育ては「家族責任」と言われ社会的支援は抑制されてきました。一方、核家族化や一人親、国際結婚、外国出身者世帯の増加など家族をめぐる状況は大きく変わっています。近隣の見守りや助け合いは衰退し、親子の孤立はかつてなく深刻です。コロナウイルス禍の影響だけでなく、妊娠の不安や葛藤、孤独な出産、産後うつなどに多くの家庭が直面し、インターネットに氾濫する情報に翻弄されながら、暗中模索の子育てを余儀なくされています。

〇全国各地にある最も身近な子育て支援の地域拠点である保育施設は、待機児童問題がなくならず、保育の必要なすべての子どもが利用できる制度とはなっていません。また、「保育の質」を担保する仕組みは未整備で、安心して預けることができる施設を探すための“保活”が家庭の悩みを深め、地域の分断さえ作っています。

〇いまだに「出産は病気ではない」との論理から、妊娠・出産には医療保険が適用されません。分娩費用は基本的に自己責任で、地域格差も大きく、出産一時金制度はあっても、都市部では分娩費の高騰に追いついていません。その結果、子どもを望む若い夫婦が出産・育児の経済的負担の大きさを実感する“最初の壁”となっています。



こども庁構想へ「子ども・子育て政策の改革 5つの緊急提言」
〜すべての妊産婦と親子を孤立させない〈皆支援〉〈皆保育〉の実現を〜


《5つの緊急提言》


1.安心して妊娠・出産、育児に臨める社会環境を確立すること

*妊娠・出産、育児の経済的負担や不安を解消し、誰もが安心して産み育てられる環境を整備すること。
*妊娠確定診断、産前産後の健診、分娩、産後ケアを医療保険適用とし、自己負担をなくすこと。
*保険適用となるまで、当面は、妊娠や分娩にかかる費用の実態を調査し、出産育児一時金を実態に合わせて増額すること。

2.すべての人に「妊娠からの伴走型支援」を保障すること〈皆支援〉

*妊娠・出産・産後のサポートに精通した専門家による、一対一の伴走型支援を提供すること。産後うつや乳児虐待につながる産前産後のメンタル問題や家族問題にも対応できる専門性を備えること。
*専門家が常駐し、子どもや家庭のあらゆる相談を受け止め、専門支援につなぐことができるワンストップセンター(子ども・子育て版「地域包括支援センター」)を全国の身近な地域に設置すること。
*妊娠期から産前産後、育児スタート期を通して、親としての学びや情報収集の機会、地域の仲間づくりも視野に置いた支援を提供すること。

3.すべての子どもに発達と成長の環境を保障し、すべての家庭を孤立から守るために「保育保障」を実現すること〈皆保育〉

*親の就労の有無にかかわらず、発達と成長の著しい時期にある子ども自身へ多様な体験を得られる環境を保障する観点から、すべての子どもに良質な保育を利用できる権利を付与すること。
*子どもの発達課題や障がい,医療的ケアなどの事情、出身文化の違いや夜間保育といった多様なニーズも、自治体が把握し地域内に受け皿を用意して、インクルーシブ(包摂的)な保育を実現すること。
*すべての子どもに「乳幼児期からの質の良い教育・保育」へのアクセスを保障すること。施設に係る安全基準の強化、職員配置基準の改善に加え、保育・教育実践に係る専門機関による評価の受審義務化と公表など、英国Ofstedのような「保育の質と安全」を担保する仕組みを確立すること。
*保育施設による家族支援の機能を再評価し、希望する家庭に利用を保障すること。育児休業中も含めて在宅で育児する家庭にも、保護者のレスパイトや学び合いの場としての利用も認めること。
*保育の利用申請に対し、利用可能で適切な保育施設を紹介するよう自治体に義務づ付けること。

4.国の所管を統合した「子ども家庭省」を創設し、総合的・横断的な司令塔機 能を持たせること。併せて、自治体の行政窓口も一元化を図ること

*関係所管を統合し、子どもと家族のための包括的な政策を推進する「子ども家庭省」を新設すること。
*自治体の行政窓口も統合・一元化し、「たらいまわし」をなくすこと

5.すべての子どもと親、妊産婦のための「ファミリーポリシー(家族政策)」を確立すること。「子どもと未来保険(基金)」を創設し、財源の統合と確保(GDP比3%を目標)を実現すること

*あらゆる家族と子どもを総合的に支援する観点から、包括的な政策パッケージとなる「ファミリーポリシー(家族政策)」を確立すること。仏、英、北欧などが家族支援を行う包括的な「家族政策」を社会保障に位置づけているように、日本でも全世代型社会保障を実現する改革として取り組むこと。
*「家族政策」の下に、母子保健、保育・幼児教育制度、社会的養護、地域子育て支援など縦割りになっている施策を統合し、個人を給付の権利主体とした「子ども・子育て総合支援法」を制定すること。
*子ども・子育て政策や家族支援に係る財源を統合し、「子どもと未来保険(基金)」を創設すること。
*財源規模は、少子化を改善させた家族政策の先進国を参考に、家族政策の費用としてGDP比3%程度を投入すること。



緊急提言とともに検討を求める《3つの要望》


1.妊娠から子育てまで、専門的知見に基づいて支援できる専門人材を十分に育成し、切れ目なく親子を支えていくための基盤を整備すること

*助産師、保健師、医師、看護師、保育士、ソーシャルワーカーなど、妊娠・出産・育児に係る専門知識と経験を持つ人材を強化・育成し、地域に必要数を配置すること。また、有資格者の再就業をバックアップし、専門性に相応しい処遇改善を図ること。
*NPOや市民事業団体などによる子育て支援事業や居場所づくり、産前産後サポート、交流活動など様々な活動をバックアップすること。

2.子どもの権利のための調査・勧告・報告を行う独立機関「子どもオンブズパーソン/コミッショナー」を創設すること

*子どもの権利を保護・推進する観点から、国連が設置を推奨している専門機関「子どもオンブズパーソン(コミッショナー)」を、独立組織として法制化すること。

3.子ども・子育て政策に係るデータ収集、効果検証、改善の検討などを行う研 究機関を設置すること

*子どもや子育てに係る政策の効果を高める観点から、科学的なアプローチを強化するためにデータ収集や効果検証を行い、政策のPDCAサイクルを具体化する調査研究機関を設置すること

趣意書
2021年秋

「こども庁」構想に関する緊急提言へご賛同のお願い


子どもと家族のための緊急提言プロジェクト          
共同代表  亀井利克   地域共生政策自治体連携機構代表理事
      佐藤拓代   全国妊娠SOSネットワーク代表理事 
     堀田力    さわやか福祉財団会長       

 日本の子どもと子育て家庭は今、かつてない苦況に直面しています。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の下、児童虐待や家庭内暴力(DV)は急増し、産後うつや産み控えが広がりました。子どもと子育てを支えるべきセーフティネットが、いかに脆弱だったかが浮き彫りになりました。

 「全世代型社会保障」を目指すはずの制度改革では、2015年度から子ども子育て支援新制度が導入されましたが、保育施設は増えた一方、支援策も財源も十分でなく、少子化の進行は止まりませんでした。「こども庁」創設をめぐる議論は、この危機的な状況を打開する重要なチャンスだと考えます。

 とはいえ、政府や各政党の議論からは、子どもと子育てのセーフティネットをどう強化するのかというビジョンは見えず、新しい行政組織を作るだけでは課題は解決しません。内閣府の国際調査で「子どもを産み育てやすい国か」と問われた日本の若い世代の6割が「そう思わない」と答える現状を変えるため、支援策と財源をセットにした子育て政策のパラダイム転換が必要です。

 私たちは、課題別の施策を束ねた「少子化対策」から、あらゆる子どもと子育て家庭、妊産婦を切れ目なく支える包括的な家族支援、即ち「家族政策(ファミリー・ポリシー)」へ転換すべきと考えます。子どもを育む“ゆりかご”である家族を支える仕組みなしに、子と親の幸せを守ることはできません。

 「子どもと家族は社会全体で支える」という社会的な連帯に基づいた「家族政策」へ転じるため、政策の第一の柱となるのは「妊娠からの伴走型支援」を全ての妊婦と子育て家庭に提供する〈皆支援〉であり、第二の柱は、全ての子どもに健やかな発達の環境や仲間と切磋琢磨する経験を保育を通して保障する〈皆保育〉だと考えます。

 本提言は、妊娠出産期から乳幼児期の子育てに絞った「緊急提言」となっています。乳幼児期以降も、学齢期、思春期、若者期と連続した子どもや子育ての課題は多様に幅広くありますし、教育や経済的給付、仕事と子育ての両立などの課題もあります。

 それでも、あえて乳幼児期に焦点を絞ったのは、妊娠の悩み、出産や産前産後の不安、育児の孤立、子どもの成長・発達への懸念など、どの子育て家庭においても不安や悩みが生じる時期であり、子どもの人生スタートにかかわる時期だからこそ、課題を早期解決する必要があると考えたためです。子どもと家庭を土台から支える“包括的な家族支援の仕組み”があれば、虐待や貧困などその後の重大な問題の発生を予防し回避することができると考えます。

 「妊娠・出産・育児で苦しい時は、いつでもSOSを出せて、助けてもらえる」。そんな安心感を誰もが持つことができるよう、伴走型で包括的な家族支援の体制を実現することが急がれます。

 人生のよりよいスタートを全ての子どもに保障し、あらゆる家族を支え、応援することは、この国の力強い未来に直結する社会投資にもなります。「こども庁」構想を議論する中で、こうした提言を検討していただきたく、幅広い賛同をお願い申し上げる次第です。

子どもと家族のための緊急提言プロジェクト事務局
所在地:東京都世田谷区世田谷1-11-18
Mail:familypolicy5s@gmail.com